冬の西穂(2017年2月25日)
日本海低気圧が通過したばかりの穂高連邦。みぞれ混じりの雨が降ったとのことで、雪は固まったと予想していました。山荘までは確かに雪は締まっていましたが独標近くになると逆に凍結しており、一部で大変危険な状態になっていました。
天候は私が登っている時以外は好天に恵まれていました。ですが、凍結した雪面でのアイゼンワークの練習にもなり実用的な登山となりました。
12時13分
今日はロープウェイから見える景色がとても綺麗です。観光客はロープウェイの中から写真を撮っている方が多いですが、私がロープウェイの中から写真を撮るのは恐らく初めてだと思います。
本日のロープウェイは団体観光客がいなかったので落ち着いていました。久々ですね、こんなに落ち着いて乗れるのは。最近はすし詰め状態のことが多く苦痛の時間でもあったので、今日は外の美しさも含めて最高の状態でした。
12時27分
今日は天候が良いです。西穂高岳の稜線が見えています。この時点では中間層に雲があり、まるで遥か彼方にある峰々のように感じてしまいます。これぞ神々の頂って感じです。
さて、今日はロープウェイの4階出口が閉鎖されて使えなかったので2階に戻って外へ出ます。いつもは4階出口の外の広いスペースで登山準備をするのですが、今回はスペースがないので千石園地を出た段階(観光客が来ない場所)でアイゼン装着などの準備を済ませます。
12時41分
また雪の量が増えたような気がします。
今日もしっかりとしたトレースが付いていて安心です。一度大雪が降ると写真のようなトレースも全てリセットされてしまいます。
なぜか初日に天候に恵まれることが少なく、いつもどんよりとした鉛色の空の下登っていくイメージがあるものですから、今日はなんだか新鮮な気分です。
12時48分
気づけばもう2月の末です。下界ではそろそろ春を感じさせられる今日この頃ですが、ここ穂高連邦はまだまだ厳冬期です。それでもこうやって青空が広がると何となくですが春が近づいているのかなと感じます。
今日のコンディションでしたらアイゼンは要らないかも知れません。もちろんそれは人それぞれです。私はあえてアイゼンを履きます。今日はゆっくり登っています。特に理由はありませんが、なんとなくゆっくり登りたいなというだけです。天気がいいからでしょうかね?
12時50分
少し雲が出ていますが稜線がよく見えます。やはり白い峰と青い空は絵になります。西穂高岳の稜線もすっかり雪に覆われています。12月ごろはまだ雪が少なく、「今年も雪が少ないのか」と思っていましたが、ここにきてだいぶ積雪量が増えた感じがします。
昨年は雪が少なく、紅葉シーズンには涸沢の万年雪が全て溶けて無くなっていました。5月の連休後の涸沢への登山道も雪が少なすぎて谷底のルートが使えないという衝撃的な状態でした。
さて、今年はどうでしょうか?
13時03分
しばらく登っていくと反対側の笠ヶ岳の稜線が見えてきます。明日もこんな綺麗な笠ヶ岳の稜線を見ることができるでしょうか?春の安定期なら期待できますが、まだまだ厳冬期。天候はわからないので今のうちにこの美しい姿を目に焼き付けておきます。
やはり行動中は暑くなりますね。今日は天気がいいので尚更です。あえてスピードダウンして体調をコントロールしながら登ります。西穂高岳は頑張れば日帰りできなくもありませんし、そうされる方も結構います。ですが私は時間に追われる登山はあまり好きでないので必ず一泊した上でアタックかけています。
13時35分
登山道は山荘への登り返し部分がかなり勾配がありキツクなります。それでも頑張って登っていくと写真の斜めになっている木に到達します。ここからがラストスパートになります。逆にいうとここまでくれば山荘はあと少しです。
ここは私にとって忘れられない場所。今は除去されていますが以前は倒木があって小屋のように見えてしまったことがありました。夜8時ごろ、胸まで積もった雪をラッセルしながら登り体力が限界になりビパークを考えていた状態でした。この先で山荘の捜索隊と合流しました。
13時39分
さあ、ここまでくればあと少しです。
それにしても今日の樹林帯はとても綺麗です。雪をいただいた峰々と青い空というのも美しいですが、こういう白い木々と青空のコラボレーションもまた良いものです。
こういう景色を見ると雪山やっていて良かったなって感じます。
13時52分
西穂山荘到着。
ここに来る前にすでに西穂高岳の稜線は雲の中に入ってしまったので、今日は稜線からの眺めは期待できないだろうなと思っていましたが、案の定山荘から上は雲の中、視界なしでした。ま、今日は稜線に出る予定はないのでそのまま小屋に入っていきます。
小屋ではいつものようにお酒飲みながらまったりした時間を過ごします。この至福の時間が自分にとっては最高です。最初は小屋の中はガラガラでこの時間で誰も来なければ今日は自分一人か、と思ったのですが、しばらくすると続々と宿泊予定者が登ってきました。結局かなりの人数になりました。
ここ数年でも冬の西穂高岳に来る人が確実に増えたような気がします。
顕著に感じるのはロープウェイ。こちらは登山ではなく観光ですが、以前は個人でくる観光客が中心で「冬のロープウェイって採算取れるのかな」なんて思っていたくらいです。天候によっては乗車が自分だけなんて時もあり、それでもスタッフのお姉さんが真面目に説明してくれて感激したりしていました。ところが最近は海外の団体客が増え、ロープウェイは行きも帰りも満員電車状態。大きな荷物を持っている登山者は肩身がせまいです。
登山者も確実に増えています。特に天候が期待できそうな時に登ってくる登山者が多いこと。週末に期待できる天気予報が出た時などは宿泊者・日帰り登山者ともにその人数が非常に多いです。明日の土曜日も宿泊予約だけで80名程度なのだとか。
夕食を済ませ、宿泊者と談笑し、就寝します。
明日は午後から天候が良くなるとのことですのでゆっくり出発することにします。
07時45分
翌朝は雲がかかってご来光は愚か視界もあるかどうか怪しい状態。
ただし午後は回復するという予報ですから、少しゆっくり目に出発することにします。
山荘周辺でも風が強いです。ということは稜線は厳冬期らしい強風が吹き荒れているものと思われるため、フェイスガードやゴーグルといった重装備をします。今回ミスってしまったのですが、ゴーグルの曇り止めをきちんと塗っておかないと曇ってしまいます。曇るだけなら良いのですが、吹き付ける暴風の影響もありゴーグルの内側が凍ってしまいます。なので、曇ったから水滴を拭きあげるなどという悠長なことはできません。一度内側が凍ってしまうともはやゴーグルは使い物にならなくなってしまいます。ですので、ゴーグルの曇り止めはきちんと事前に処方しておくか、換気機能のあるゴーグルを持参することを強くお勧めします。
07時50分
稜線は予想通り強風が吹いています。厳冬期にしては穏やかな方ですが、それでも強風であることに変わりありません。重装備してゴーグルをすると視野が限られるのであまり好きではないのですが、露出する部分がないので寒くありません。
山荘から稜線に出るときは、まず裏手の丘を登っていきます。朝一番の登り始めなので体を慣らすためにもゆっくり登り始めます。
数日前に降った雨の影響で氷の層ができていますが、トレース部分は踏まれているので雪の柔らかい状態になっています。ですが場所によっては氷の層が厚くなっており、アイゼンが刺さらない状態、いわゆるコンクリートの上を歩くような状態の場所があり、これがまた危険な場所でこのような状態になっていました。
08時01分
丸山到着。
さて、今日の丸山は厳冬期にしてはさほど風も強くなく写真も撮りやすいのですが、何せ雲の中ですから何も見えません。
先行パティーがここで写真を撮って賑わっています。もう少し天候がよければもっと良い思い出ができたのでしょうけどね。ま、自然だけは逆らえないです。
08時02分
さて、稜線を見上げます。視界がないですが雲が流れているのがわかります。天気予報の通り急速に回復しているものと思われます。
ここから先のコンディションがわからないので、まずは独標まで登ってから先へ行くかどうか判断することにします。
08時07分
丸山から先の広大な稜線を登っていくと雲が切れて青空がのぞき始めました。
このまま回復するかと思ったのですが、厳冬期の穂高はそう甘くありません。もちろんこれも想定内です。
この広大な稜線は急いで登っても疲れるだけなのでゆっくり登っていきます。やはり氷の層ができていてアイゼンで踏み込むとザクッと割れて10センチくらい沈みます。春になるとこのような状態が多いです。
08時45分
独標手前の第12峰に到達するころにはすっかり雲に覆われてしまい、ほぼ視界がなくなりました。ここまでくるとコースアウトすることは物理的にあり得ないのですが、信州側に張り出した雪庇が通常よりも判別しにくくなるので注意が必要です。
ゴーグルの内側が完全に凍結して氷の幕になってしまいました。ゴーグルの管理不徹底による自業自得です。ただし風が想定以上に穏やかになってきたため、ゴーグルを外します。視野が一気に広がります。
08時48分
独標直下は凍結していました。かなり危険な状態です。
場所によってはピッケルが刺さる場所もあるし、場所によってはアイゼンも刺さらない場所もありました。アイスバーンかと思いきや、その次の瞬間は柔らかい雪が崩れてしまうような場所が出てきたりと、コンディション的には高難度で、これから迎える春山登山に向けての非常に貴重な訓練とすることができました。
08時51分
独標本体は岩こそ写真のように凍結していたものの、足元の雪は普通にアイゼンやピッケルが効く状態で、こちらは逆に登りやすい状況でした。
やはり飛騨側からの風にさらされる部分と信州側とでは全く雪のコンディションが異なっており、特に通常風が吹き付ける場所はアイスバーンになっていて、一瞬の油断もできない状態でした。
独標の鎖から上の部分が信州側でよかったと思った瞬間です。
08時54分
西穂高岳独標登頂。
今日はここで引き返すことにします。先に進んでも視界が悪くてメリットがないこと、この先の第10峰、第9峰は飛騨側の急斜面があり、今日の条件ではアイスバーンになっていることが十分予想されること、このような条件ではソロの場合はリスクが非常に高いことを踏まえての判断です。
さて、しばらく休憩したら体が冷えないうちに下山することにします。
すでに完全にホワイトアウトしていますので、丸山に向けておりていく部分は間違えないように慎重におりていきます。
少々事情があって5人で下山していきます。
山荘で休憩してロープウェイにおりていくと、先ほどまでのホワイトアウトが嘘のようにすっかり青空となり最高の気象条件に変わっていました。本日登ってきた登山者はラッキーですね。
もう、3月です。
下界は春になろうとしています。
ここ(穂高)はまだ厳冬期です。
暖かな日差しが注がれたと思ったら次の瞬間吹雪のホワイトアウトになるような状況です。
山は厳しいです。
でもその厳しさの中に見ることができる美しい姿は、山って本当は優しいんだな。と思えてきます。
2017年2月25日
Copylight 2015-2016 Myclimbing Report All Right Reserved.