冬の西穂(2016年12月9日)
今シーズン2回目の冬の西穂は、前回とは異なり典型的な厳冬期の北アルプスの厳しさを実感する内容となりました。2日目は降雪後のアタックとなったため一部胸近くまでのラッセルが必要となり冬山の厳しさを改めて思い知らされました。
11時55分
ロープウェイの終点に到着。
前回来た時よりは雪の量が確実に増えています。もっともこの時期はその年々によって雪の量が全然違うわけですが。
アイゼンやゲイターなどの装備をします。今日もいつもと変わらずベースレイヤーの上にハードシェルジャケットのみです。冬山始めたての頃はこれでもかというくらいインナーを着込んでいたのですが、結局暑くて汗で濡れてしまい結果的には最悪な状況になってしまいますので、今は寒くても動き出すとちょうど良くなるような状態にしておきます。
12時09分
今回、雪はしっかりと積もっています。なのでアイゼンの刃が岩に引っかかることはありません。ただし雪が降りたてのようで、まだしっかり締まっておらず吹き溜まりや山荘間近の斜度のきつい部分などは少し苦労しました。
今回はルート上に目印の旗が立っていました。わかってはいてもこれがあると何だか安心することができます。
12時13分
この部分(登山道に入りたての部分)はまだ夏ルートを通るようになっています。もう少し積雪が増えたら冬ルートに切り替わるかもしれません。稜線上もそうですが積雪により通れなくなる場所、逆に積雪により通れるようになる場所があり、これもまた山の魅力のうちの一つでもあります。この時期は夏ルートを行った方がいいのか冬ルートを行った方がいいのか、ある程度ルートファインディングができないと苦労するかもしれません。
12時24分
普段ならこの部分から丸山〜主峰までの稜線が見渡せるのですが、今日はご覧の通り何も見えません。まあ、今日は山荘まで登ったら終わりなのであまり気にしません。むしろ明日の朝がどんな天気になるかの方が重要なわけで。インターネットで調べた山の天気によれば一応晴れとなっていたのですが、あくまでも麓の天気ベースの情報なので実際の西穂高岳の稜線の天気は蓋を開けて見なければわかりません。
12時32分
雪の量は確かに増えてはいるのですが、総合的にはまだまだ少ないです。所々に笹が見えていて、これがもっと雪が増えると笹の葉も雪の中に埋もれてしまいます。それにしても樹林帯の中は静かです。自分の歩く音や息の音しか聞こえて来ません。
13時22分
山荘に近くなると斜度がきつい登りが始まります。
頑張って登り切ると最後は比較的平坦な道になります。なのできつい登りが続いて疲れてくるのは山荘が近いというサインでもあります。結構「山荘まであとどれくらいですか」って聞かれることが多いです。雪のコンディションやその人の技術によっても差があるので一概に言えませんが、よほどひどい状況でなければロープウェイから山荘までは1時間程度というところでしょうか。とは言え大雪が降った直後でラッセルが入る場合は半日以上かかることもあります。
13時31分
西穂山荘到着。
だいぶ厳冬期の山小屋っぽくなって来ましたね。前回は夏の山小屋に毛が生えた程度でしたが、手前の部分は雪に埋まっていて雰囲気が出て来ています。左手の四角い部分は言わずと知れた雪だるま用の細工です。なんだか昨シーズンに比べると随分大きいような気がしますが、また巨大な雪だるまが完成するわけですね。今から楽しみです。
さて、今日の行程はここまで。
まずは中に入って西穂ラーメンを食べます。そう、これがないと始まらないです。
食後、受付をして一通り身支度ができたら、雪見酒。外の吹雪を見ながらまったり日本酒を飲むという非常に贅沢な時間なわけです。
で、宿泊すると思っていた方々は皆下山するとのことだったので、山荘スタッフの方に聞いたら本日の予約は自分だけとのこと。「ただ、予約なしで来られる方もいると思いますので・・・」とスタッフの方。
しばらくすると2名の方が宿泊で来られました。結局3人で夕食の時間までずっと飲んでいたという・・・ ま、そんなのも登山の醍醐味ですね。
翌朝。外に出てみると暗くてわからないですが確実に荒天だというのがわかります。
なので出発を少し遅らせて8時ごろにすることにします。こういう荒天の時はいつまで待っても変わらないので「登るか」「下山するか」の判断をしなければなりません。気象的には典型的な厳冬期の稜線なので大丈夫なのですが、問題は昨晩想定以上に降ったようで完全なラッセルとなることでした。少し考えますが丸山上部のお花畑が膝上以上のラッセルになるようなら撤退しようと考えます。
08時28分
想定していたことではありますが、山荘裏手の丘に登る部分は見事に胸近くのラッセルでした。写真は普段は道があるのですが今日は痕跡すらありません。朝一番から冬の西穂高岳の精錬を受けます。昨日宿泊した2名の方々とはずっと行動が一緒だったのですが、ラッセルを交代してもらいとても助かりました。もし、自分一人だったらおそらく丸山で体力尽きて引き返していたかもしれません。
08時40分
丘に登ると稜線を吹き付ける暴風に晒されます。今日の風はどちらかというと、そこまで強くありませんでした。ひどい時はまっすぐ立っていられないのですが今日は普通に歩くことができたので、気象条件としては厳冬期という枠の中では良い方だったと思います。
普段はこの程度ならインナーは着ないのですが、今日はインナーを着込んでみました。暑くなくちょうど良かったように感じました。
09時07分
丸山到着。
ここに来るまでもラッセルがありかなり体力消耗してしまいました。
さて、この先どおするか。少し3人で考えますがとりあえず登ってみて困難だったら引き返すことにします。
心配なのはラッセルがあるのかどうかということ。例年の様子を見ていると稜線は雪が風で飛んでしまうので膝以上のラッセルはないだろうと予想していますが、冬の山は予想をあてにするのは禁物ですから実際の様子で判断することにします。
09時27分
丸山上部の登り部分は確かにパウダーは乗っていますがラッセルをするというほどではありませんでした。また一部氷状の幕ができている部分もあり(アイゼンは普通に効くので問題ないですが)コンディション的には中の下といったところでしょうか。
今日は雲の流れが早く、青空が見える瞬間や日が差す瞬間もあり冬山らしさを実感しました。丸山に到達するまでラッセルで体力を使っているので、いつもよりこの登りがキツイです。
09時56分
丸山のお花畑を登り切ると今度は雪が深くなり足を取られることが多くなりました。写真の場所は今までこんなに積雪しているイメージがなく、ちょっとびっくりしたのですが、それも何があるかわからないのが冬の山ですからどんな状況でも落ち着いて対処しなければならないです。
10時02分
しばらくすると一瞬ガスが抜けて独標とピラミッドピークが見えます。こうやって目的地が見えるというのは安心感があります。
快晴の時はもっと近くに感じるのですが、こういう天候の時はまだ遥か先のように見えてしまいます。実際はここまで来てしまえばそんなに時間はかかりません。
10時13分
今回は雪がしっかり積もっているので第12峰は峰の上を歩いていくことができました。峰の上を歩いていった方がはっきり言って楽です。ただし信州側は雪庇が張り出しているので注意しなければなりません。この時期はまだ雪庇がそんなに成長していないので間違いを起こすことはないですが、2月ごろにもなるとあたかも道があるかのように雪庇が張り出すので気をつけないと踏み抜いてしまいます。
こうやって見てみると独標もだいぶ雪が付いて雪山らしくなっています。
10時16分
写真は独標直下ですが今日のような条件の際に一番心配する場所です。
当然ながらトレースは消えています。ただルートはわかるので写真の場所をトラバースして進むのですが、コンディションが悪いと雪が崩れてしまい、アイゼンやピッケルが用をなさないことがあります。徹底的にアイゼンを蹴り込んで足場を安定させながら進まなければなりません。
ですが今日はこの部分の雪はしっかりしていてアイゼンで止められるので最悪のコンディションを免れることができました。
10時19分
独標の岩は凍り付いています。ですが緩めに締まった雪が想定より多く着雪しているので、前回来た時よりはコンディヨンが良いです。
ここは毎年のように滑落が起こる場所です。なのでどんなコンディションであっても慎重に登らないと(降りないと)いけません。
10時26分
西穂高岳独標登頂。
視界なし。
それでも込み上げてくる達成感。時々雲の切れ目から見える主峰への稜線や、今まで苦労して登って来た登山道。そういうのを見ると頑張った甲斐があります。
今日はここまで。
下山を始めます。やはり第12峰を降りるまで気を抜けません。また再びガスってしまい視界が利かなくなり、一部を除いてトレースも消えているので地形で判断してルートを定めなければなりません。
さあ、丸山付近まで降りて来ました。
典型的な厳冬期の穂高の光景です。この幻想的な状態も好きです。もちろん快晴の雪山は素晴らしいの一言に尽きますが、こんな光景もまた良いものです。
吹雪が自分の顔に吹き付けています。寒いを通り越して痛みを伴っています。ですがこの痛みがむしろ心地よいです。
途中、オコジョと遭遇しました。写真を撮る前に姿を消してしまったのでしばらく周辺を探しますが二度と現れてくれませんでした。
山荘が見えるところまで降りてくると、今日はたくさんの登山者が登って来ているのがわかります。テントサイトもほぼテントで埋まる勢いでした。山荘で軽食を取りロープウェイに向けておりていきます。
話を聞くとロープウェイから山荘までもラッセルだったようですが、かなりの人数の登山者が登って来ている関係でしっかりしたトレース、場所によっては階段ができていてとても楽させていただきました。道中、たくさんの登山者とすれ違い12月のこの時期にしては大変珍しいと思いました。これも近年山岳関係の雑誌で雪山のことが取り上げられていることによるものなのでしょうか。
さあ、今回は厳冬期らしい冬山登山となりました。いつもコンディションが良い状態ばかりだと技術の向上にもならないので今回のような条件下での登山というのも意義があることだと思います。
次回はどんな登山となるでしょうか。
お読みいただきありがとうございました。
2016年12月9日〜10日
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