私の登山記録

冬の西穂(2012年12月)第2部

あらゆる条件に恵まれ、あっと言う間独標から先の峰々を走破し、直前で体力的に限界となりザックをデポしたもののピラミッドピークに登り詰めた自分。
 しかし、その瞬間「目的達成」から「チャレンジ開始」に急変した自分は気がつけばその次の第7峰に向けてピラミッドピークを下り始めているのでした。






08時59分
 ピラミッドピークから第7峰は思っていたよりすぐに到着しました。岩に「7」という数字が書いてあり、「あ、もう7峰か」とちょっと拍子抜けした感じでした。
 時間はまだ9時前。天気も全く心配なし。
 もはや戻る気は全くありません。ただ心配なのはザックが一式無いので長時間は難しいという事(ザックのあるところまで戻ってこなければならない)水分補給や行動食が撮れないということです。また、帰りの高速バスの関係があり14時15分発のロープウェイに乗れるように戻らなければならないといことでした。
 なので、自分の中で決めます。

 「10時00分の時点で引返す。これが時間的限界」

 タイムリミットまで後1時間。
 第7峰を後にします。






09時06分
 第6峰着。高低差はありますが、技術的には難所というほどではありません(あくまでも独標から主峰の間での話ですが・・・)
 実はここから先、峰としてカウントするのか、ただの岩なのかわからなくなりました(岩に書いてある数字が雪で覆われていたので)
 しかし、今自分が何番目の峰にいるのかということはもはや気にならなくなりました。もう既に西穂高岳の主峰が見えるので、後どれくらいかというのが目で見えるようになっているからです。
 時間はまだ余裕があります。次の峰に向けてすぐに出発です。






09時13分
 第5峰です。
 ここは飛騨側を巻いて行きます。簡単に言うようですが、滑ったら数百メートル下まで一気に滑り落ちること間違いなしです。






09時14分
 次の第4峰はチャンピオンピークという別名があります。第5峰からはかなりの高低差があります。斜度がきついので時にはバイルを使って四つん這いに近い状態で登ります。
 チャンピオンピークとは良く言ったものですね。






09時24分
 チャンピオンピーク付近から撮影。ピラミッドピークから第5峰までが綺麗に並んで見えます。一番右の峰が第5峰ですがあそこから一気に高度を上げてきたんです。
 そして一番左には既にはるか下になった独標が見えています。






09時37分
 チャンピオンピーク(第4峰)から3峰、2峰、主峰を見渡します。まだ3峰までは行けそうです。
 少し喉が渇いてきました。かき氷代わりに雪でも食べようかと思ったのですが、乾きも忘れるこの景色で喉が潤った気分になりました。
 時間に多少余裕有り。第3峰まではそんなに距離や高低差はないので進む事にします。






09時44分
 第3峰です。この少し前あたりから急な斜面をトラバースすることが多くなります。一組のアイスバイルと一組のアイゼンに自分の命を預けながら進みます。






09時58分
 第2峰付近から撮影。ピラミッドピーク、7峰、5峰、チャンピオンピーク、第3峰付近がよく見えます。
 さて、ついに10時2分前になりました。そろそろ戻る事を考えなければなりません。少しお腹がすいてきたような気がします。

ですが・・・






09時58分
 この光景・・・。よし! 主峰の手前のあの雪庇が張り出しているところまでいこう。あそこならさほど時間はかからないはずだ。
 もう、このころになると自分を抑えられなくなりました。
 いいさ、最悪の場合は帰りの高速バスをキャンセルして電車で帰るさ。

 この光景はまさに自分の理性を狂わせていました。

 西穂高岳山頂の道標がはっきりと見えています。先行者は既に登頂して喜びを分かち合っています。






10時07分
 西穂高岳頂上直下です。ここを登れば登頂がかないます。
 ここで戻るのは悔しすぎる。天候が悪い訳でもけがしている訳でもない。正直体力はかなり消耗しているが(高度は約3,000メートルなので多少空気も薄く疲れやすくなっている)まだ大丈夫。

 「今登らなければ次はこんな好条件はないだろう」

 「だが、今回の目標はあくまでもピラミッドピークだったんだからここまで来れただけでも上等ではないか」

 「来シーズンまで悔やむくらいなら登るべきだ」

 「これから今まで苦労してきた行程を延々と戻らなければならないんだ」

 理性と欲望が自分の中で葛藤し始めました。



 そして出された結論は・・・






10時16分
 2012年3月29日、西穂高岳2,909メートル登頂。

 見た目以上の傾斜をアイスバイルを突き刺しながら、そして空気が薄い中登頂しました。

 自然と涙があふれてきました。

 登山をしていて良かった。心底そう感じました。






奥穂高岳方面です。
ここから先は日本の縦走路の中でも最も困難な箇所です。エベレストなど8000メートル級の登山の訓練に選ばれるようなところです。






槍ヶ岳が遠くに見えます。


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆

今回の登山を振り返って

☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


好条件が重なっていました。
・天候
・先行者がプロガイドで確実なトレースがついていた
・出発時間が早めで当初の予定(ピラミッドピーク)に早めに到着できた。
・4峰付近から先は積もった雪の内側が溶けて外側が卵の殻のようになっている危険な状態が一部あったが、全般的に雪がしまっていてアイゼンやアイスバイルの刃がよく効いていた。

このどれか一つでも欠けていたらピラミッドピーク登頂さえ叶わなかったかもしれません。

ですが、感情に任せて設定した時間を超えて主峰に登頂したのも事実です。結果的には平湯温泉で温泉に入る時間まであったのですが、一つ間違えれば新宿行きの高速バスの乗り過ごしたかもしれません。

少し背伸びをしすぎた登山だったかも知れません。実際、帰りは途中で先行者を抜いて先に下山していたのですが、第7峰からピラミッドピークに下りる途中、コースを間違えてしまい、どんでもない崖っぷちへ出てしまいました。

良い思いでであると同時に自分への教訓にもなった登山でした。




2012年3月29日





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