槍ヶ岳〜北穂高岳(第3部)
ついに大キレットの槍ヶ岳側の入口となる南岳小屋まで来ました。ここからが大本番。心配していた天候は全く問題なし。
心配なのは自分の体力のほう。標準タイムでは大キレットを超えるのに3時間半とされているが、「時間より安全」をモットーにゆっくり進む事にします。
09時43分
大キレット入口です。ここを下りて行きます。
入口からして凄いのですが、実は大キレットの中では序の口です。ここで無理と思ったら大キレットは諦めてください・・・
絶対に救助を呼ぶ事になるでしょう。
実は、この入口の手前で石車に乗って転んでしまいそうになりました。さい先悪いこのアクシデントに一抹の不安を感じてしまいました(怖)・・・
09時46分
ほんのちょっと下りただけですが、こんなに高度が下がりました。この部分はザレているので、とにかく滑らないように慎重に下りて行きます。
滑ったらシャレにならないです。っていうか新聞に名前が乗る事になります。どこまでも止まらず転げ落ちてしまいそうです。
鎖がある場所もあります。「ここで鎖?」ってな場所もありましたが、多分逆から登ってくる場合は必要なのかもしれません。
09時52分
大キレットのほぼ全容が見れます。
大キレットはごく一部を除いて「巻く」ことはしません。というか巻けません。なので長谷川ピークを含め本当の稜線つまり、てっぺんを歩いていきます。
10時14分
さらに下りて行くとハシゴが出てきます。
このハシゴを下りると一通り下りが終わったように思えます。
でも、まだ大キレットの底にいるわけではありません。
そう、これでもまだまだ序の口なんです。
大キレットの終着点である北穂高岳山頂がまだまだ遠くに見えます。
10時53分
大キレットの底の部分は、ほぼこんな感じのピークを登ったり下りたりします。こんな凄い岩峰が当たり前のように出てくるのですから、大キレットというのは凄まじいわけです。
最初は、「ここを行くのかよ」って思っていましたが、最後には違和感無く、当たり前のように、ひょこひょこと普通では信じられない稜線を超えて行ってしまう自分がいるのでした・・・
12時07分
そして長谷川ピークの頂上に馬乗りになって撮影。
こうやって写真にしてみると何てことないのですが、実際は生きた心地がせず、恐怖感で何も感じなくなっていたというのが現実です。
長谷川ピークの少し手前から、自分と同じテントと一眼レフを担いだ方と一緒に行動するようになりました。写真中央に少しだけ赤いザックが見えているのがわかりますでしょうか。
後で、北穂高岳山荘で話したときに、お互い心強かったと本音をぽろりと言い合ったのですが、このときはそんなことはまだ知るすべもありませんでした。
12時19分
長谷川ピークのてっぺんを過ぎてちょっと進んだところのこの下りが自分的には一番怖かったです。踏み外したら最後。岩や打ち込んであるステップを握る手は手袋をはめていても滑ってしまいそうな恐怖感。
高層ビルの外壁を下りてくる感覚と言えばと少しは通じるでしょうか。
12時56分
長谷川ピークを超えた後も引き続き気を抜けません。
そしてやっと一息つけるところが通称「A沢のコル」
しかーし、大キレットはそんなに甘くない!
そう、次に超難路である飛騨泣きが控えているのだー
で、飛騨泣きを少し登ると先ほどの長谷川ピークの全貌が見えます。よくもまーあんなところを越えてきたものだと感心します。
で、こいつが飛騨泣きの一部分。
昨年はここで滑落者が出て(多分死亡)いるのをニュースで確認しています。遭難多発地帯です。
上の方を見ると、大キレットの終点である北穂高小屋の建物が見えています。ですが、見えているだけであってまだまだ先なんです。距離的には遠くはないのかもしれませんが、普通の道を歩く訳ではないので・・・
13時32分
先ほどの写真と同じような写真ですが、登って行って初めて気付くんです。
大キレットの終点である北穂高岳と今自分がいる崖の間には深い谷があるんだという事に。そう、直線では近いのですが、北穂高岳へいくには巻いて行かなければならないのです。
ちなみに写真に写っている垂直の崖があの有名な滝谷です。
14時05分
ここは、両側崖になっているので、鎖をしっかり握って「かにさん歩き」をして越えて行きます。
って、なんだか普通に書いていますが、こんな仰天な場所がもう普通に思えてきてしまうんです。そ、大キレットというのはそういうところです。
ここで、大キレットを自分とは逆に南岳へ向かうお兄さんとすれ違います。高級一眼レフを前面に固定していたので、ちょっとだけカメラの話で盛り上がります。
その後お互いが通ってきた道の情報交換をして別れます。
14時24分
ここは先ほどA沢のコルからは見えなかった、巻いている部分です。信州側になりますので、この時間は日が当たらず少し寂しい感じがします。といっても寒くはありません。
この少し先に進んだところで自分は完全に体力を使い切ってしまい、一緒に行動していた(といっても、間隔は凄く開いていて、お互いに存在を確認する程度だが)方に先へ行ってもらい、自分は岩に腰掛けて10分くらい寝てしまいました。
ですが、この10分が良かった! だいぶ体力を取り戻せたのでラストスパートに挑む力が湧いてきました。
14時48分
文字を読んで嬉しかったことって、自分の人生の中でそう多くはないのですが、この字を見たときの嬉しさは、ブログを書いている今もリアルに伝わってきます。
今回のブログでは自分のコンディションの事をあまり書いていませんが、ここであえて言うなら、息切れ、足が痛い、荷物の重みで肩が痛い、ずっと続いている岩登りのため足が笑っている、多分高山病なのか頭痛がする等々。
残りの200mといっても、岩をよじ上って行くので決して楽ではありません。ルート場を行く限りは浮いている岩はそう多くないのですが、それでも危ないなと思う岩はたくさんあり、実際浮いていたものも結構ありました。
最後の力を振り絞って北穂高岳頂上直下をよじ上って行きます。
15時53分
大キレット踏破
もう、ここから先へ進む気力はありません。
当初の予定は穂高岳山荘まで行く予定でしたが、まず無理。
予定を変更してこの北穂高小屋で宿泊する事にします。
そして、自分の体力(健康状態)と相談した結果、明日は縦走せずに、涸沢経由で下山する事にしました。
小屋のサンダルを履いて、北穂高岳に登頂します。
なんだかシュールでいいですね。
涸沢から登頂してきた若者もいて、とても賑わっていましたよ。
北穂高小屋と言えば、名物は夕食の豚の生姜焼き!
超おいしいーーーーーーー!!!!
そして何よりも感激したのはスタッフの気配りがすごくいい!!
ご飯とみそ汁のおかわりは自由なのですが、「ご飯よそりましょうか」「みそ汁大丈夫ですか」ってすぐに声かけてくれる。これは下界の飲食店は見習った方がいい!!
おいしい食事とスタッフの笑顔に癒されました。
さて、槍ヶ岳と大キレットという二つの目的を達成する事が出来ました。
今、こうして沈んで行く夕日を見ながら考えているのは、何か難しい事ではなく、「山っていいな」 ただそれだけです。
同じ山を愛する人との会話も楽しいし、なによりもこの素晴らしい天空の世界で絶景を目の当たりにできるというのは本当に幸せです。
近年、登山を取り巻くマナーが問題視されています。無謀な計画が故の救助要請、ゴミの放置、他の登山者に迷惑をかけるような登り方(下り方)等々。このような報道を耳にする度思うのですが、こういう人たちは本当に山を愛しているのだろうかと疑問に感じます。単なるブームで来てみただけなのだろうか。
それでも、本当に山を愛する人の心はいつになっても変わらないと信じています。いま、北穂高岳の頂上で同じく夕日を見て感激している若者たちのような方々によって山の素晴らしさが受け継がれて行く事を心から願います。
2013年10月1日
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