私の登山記録

冬の西穂(2016年2月)

 

 月に一度のペースで冬の西穂を予定してたのですが、天候や仕事の関係でなかなか予定通りにいかず、この時期に初登りとなってしまいました。
 天候は前回とほぼ同様の条件で、一言で言えば「暴風で視界なし」。なので今回も独標でストップしておきました。なかなか、穂高の峰々は美しい姿を見せてくれませんね。






08時08分
登山者専用駐車場に車を止めて稜線を見上げてみます。
予報では天候が期待できそうだったのですが山の天気はわかりません。昨日が1日を通して最高の天気だったようですが、この時期の天気は長続きしないものですね。
 
ロープウェイの始発時刻を8時30分と勘違いしていて、ロープウェイ乗り場に来たら「8時40分開館」と書かれていてしっかり施錠されていました。9時始発のようです。季節によって違うのかもしれませんね。
 
時間まで待ってからロープウェイに乗り終点までいきます。






09時37分
ロープウェイの終点に到着。
もうこの時点で今回もあまり条件は良くないなというのがわかります。
 
私は登山が目的なのでまだ良いのですが、観光でここまで来た方々はちょっと残念だと思います。天気が良ければいつも歓声が湧き上がるのですけどね。
 
観光客の方が登山準備している人たちのところに来て「これから登られるのですか」って声かてくれました。多分、エベレストのような過酷な状況をイメージして心配していらっしゃるように思えましたが、実際は1時間も登れば暖かい山小屋でビール飲んでラーメン食べるんだなんて口が裂けても言えないので、どう返答しようかなって考えていたら、隣にいた登山者の方が「大丈夫ですよ1時間も登れは山小屋があってビール飲んでゆっくりできますから」と笑顔で応答!! うーん、山の人間はそうでなくてはいけないですね。ありのままを隠さず伝える。まさに登山者の鑑!!
 
さて、いつものように登山の準備をしてから登り始めます。






09時43分
ここは出発してすぐのところにある管理小屋のような建物です。もちろんこの時期は閉鎖されていて誰もいません。
 
屋根に積もった雪が今にも落ちてきそうです。この小屋を見ると、登山時は「よしがんばるぞ!」という気になれますし、下山時は「あ〜、帰ってきた」という気になります。なんだか不思議なものですね。






10時05分
これはまた珍しい光景です。私が冬山に登る中では初めて見ます。木の枝からつららが垂れています。これは私の勝手な予想ですが、今年は異常に気温が高い日があったので、一旦木に積もった雪が溶けてたが、すぐに気温が下がって凍ってしまったのではないかと考えました。ま、実際はわかりませんが。ただこの時期にしては異常に気温が高くて雪でなくて雨が降った日があるというのは事実のようですし。






10時10分
さて、登山道は登ったり降りたりを少し繰り返した後、最終的には本格的な直登になります。雪山に慣れている方ならアイゼンなしで登る方も多いですが、私はとてもじゃないけどそこまで極めていないので、しっかりとアイゼンを効かせながら登っていきます。
 
今日の雪質は良い方です。一部ガリガリ感がある場所がありましたが、全般的に(稜線も含めて)アイゼンの刃がしっかり効く状況でした。これで天気が良ければ文句なしだったのですけどね・・・






10時16分
こういう景色って大好きです。
すべてが白い世界。そして静かです。
下界にいると、あらゆる意味でうるさいです。あらゆる意味で汚れていて汚いです。
でもここ(冬の穂高)にいると静かで自分が雪を踏みしめる音しか聞こえてきません。そして見渡す限り白で綺麗です。心が洗われるような気がします。
 
と、少しカッコつけて書いてみましたが、真面目な話、白一色の世界は本当に素晴らしいとしか言いようがないほどです。






10時39分
今年もこの場所に来ました。
そう、2011年12月の話。
記録的な大雪が降ったまさにその翌日。ワカンを持たずにツボ足で西穂山荘に向かった愚かな自分。当然場所によっては胸まで沈み込む積雪で、ラッセルしながら必死で登ったものの、(当時は車ではなく公共機関できていたので午後2時頃から登山開始していました)写真の場所の近辺ですでに夜8時前になってしまい、山荘のスタッフ=遭対協の方々が出動して助けていだたいたという苦い思い出の場所なのです。
必死で頭下げて謝りましたが、とても暖かいお言葉をかけていただき今でも感謝しています。
 
今日もその時の教訓の一部としてザックにはワカンがきちんとくくりつけてあります。冬山は「気合があればなんとかなる」なんていう生易しいものではありません。







10時48分
さて、写真の場所までくれば西穂山荘はもうすぐです。
ロープウェイ終点から山荘までの道中で一番きついところではないかと思います。下山時もこの部分はどうして慎重になってしまいます。
いつ来てもこの部分は辛いですね・・・
ただ、なんとなく開放感があって決して嫌いではない、というか逆に好きかもしれません。先ほども書きましたが、雪がしっかりしていて余計な体力を使わなくて済むので 少しは楽に思えます。
 
ちなみにあまり関係ない話ですが、この写真を撮るときシャッター押しても反応がないので、あれって思ってチェックしたらなんとSDカードがエラー表示されているんですよね。もしかして容量不足か?と思ってひやっとしたのですが、先ほどまで残り1000枚以上と表示されていたので、それはないだろうと思い、何度か抜き差ししたり本体の電源を切ったり入れたりしているうちに治ったので良かったのですが、写真を撮れないのはかなり苦痛なので次回は予備のSDカードやコンパクトカメラを用意した方が良さそうですね。






11時01分
西穂山荘到着
ご覧の通り最悪な気象条件です。
とにかくガスっていて視界が効かないというのが辛いです。
これは前回の年末の時よりも条件が悪いかもしれません。悪天候というだけならいいのですが視界がないのは勘弁です。

とりあえず、山荘で休憩するためアイゼンとかを外して中に入っていきます。
今回も定番の西穂ラーメンしょうゆ味を頂きます。

西穂ラーメン、美味しい〜

最高ですよ!!

私はいつもコショウを多めにかけます。汗が吹き出ますが、氷点下の凍りついたこの世界では丁度いいくらいです。「氷結」という飲み物のついでに飲んでこれから登る過酷な稜線に対する備えをします(「備え」じゃないだろ〜 って声も聞こえてきそうですが)。






11時40分
さて、休憩を終え、ついに稜線に向けて出発します。
見るからに暴風吹き荒れの視界ない状態なので、フェイスガードやゴーグルなど重装備をして向かいます。
ただ、気温はこの時期にしては異常なほど暖かいです。山荘の温度計では氷点下5度。冬の西穂高にしては暖かすぎます。その証拠として稜線から戻ってきた時に、通常なら金属製の用具は凍りついているのですが、今回はそれがなかったのでびっくりしました。






11時46分
山荘の裏手の丘を超えるとすぐに森林限界突破しますが、容赦なく暴風が吹き付けます。下界でいう「強風に注意してください」なんていうレベルではないです。
本当に風下に持ってかれてしまいます。風にあおられてすぐにバランスが崩れてしまいます。
視界はその瞬間瞬間によって違いますが、最低でも10m程度、瞬間的にかなり先まで見えることがあり、完全なホワイトアウトまでには至らないです。まずは丸山まで行こうと思い先に進みます。






12時04分
丸山の手前付近で何か動くものがあったのでよく見てみたら・・・


雷鳥だ〜


ついに出会えましたね!
夏の時期には何度か出会いましたが、冬の時期の真っ白な雷鳥は初めてです(正確には過去にちょこっとだけ見たことはありましたが、まじまじと見るのは初めて)。

2羽いました。想像以上に活発に動くので写真に収めるのに苦労しましたが、これがベストショットかもしれません。

この出会いに刺激を受け、元気百倍となり暴風をものともせず登っていく元気が出てきたのであります。そして意気揚々と丸山に向けて進んでいきます。






12時10分
丸山到着。
この丸山まで往復されるという方も結構多いです。ここまでくれば独標やピラミッドピークなど西穂高岳の稜線らしい光景が見れて達成感もあると思います。もちろん天候が良い時ではありますが・・・

今日のこの時間はダメです。完全にガスっていて全く視界がありません。
ただし、全くのホワイトアウトではなく少なくとも10m程度は視界が担保されている状況ですし、雲の流れによってはかなり先まで展望が利きますので独標まで登ることにします。






12時15分
稜線の先まで見える瞬間が時々あります。
丸山から先は目印となる旗はなかったように記憶していたのですが、今回は第12峰付近まで旗が立っていたので安心できました。「目印は丸山までしかないですよ」って言ってしまった方がいましたがごめんなさい。あまり正確な情報ではありませんでした・・・

冬の山というのはその時々で全く表情が違うものですね。晴れた日は写真の箇所は稜線がくっきり見えてとても快適に登れるのですが、一つ間違えるとこんなになってしまうのですからね。

これが北アルプスの厳冬期の現状です。






12時37分
海老の尻尾がとても成長しています。
ご存知のように海老の尻尾は風が吹いてくる方向に向かって成長していきます。これだけ成長するのはあまり見たことがないのですが、いかがなのもでしょう。

これも厳冬期の稜線だからこそ見れる風景ですね。
この写真を撮る瞬間も風で吹き飛ばされそうで大変だったのですが、こういう独特の光景を見れるというのも冬山の魅力です。






13時00分
登れば登るほど条件は過酷になってきます。
まともに立っていられないほどの暴風が吹き付けるのは変わらないですが、独標に近づくと足場が悪くなってきます。滑らせたら一大事です。

雪のコンディションが比較的良いのが唯一の幸いです。アイゼンの刃がきっちり雪面に食い込んでくれるので安心できます。「安心してください、食い込んでますよ」

失礼しました。

足場が安定しているのが唯一の好条件であるということです・・・






13時07分
そしてついに独標が見えてきました。
もちろん晴れた日ならとっくの昔に見えていたのですが、今日はここまできて、そして雲が抜けてやっとその姿が見えました。

普段なら独標が西穂高岳までの岩峰の玄関口という認識なのですが、今日はあたかも最終目的地のような存在で、この写真を撮った時も感激してしまいました。それだけ条件が悪いということです。






13時12分
独標直下です。
この岩をよじ登った先に独標登頂という達成感が待ち受けています。
この独標直下は今回のような条件では雪が吹き溜まることが多く、ピッケルを突き刺しても、アイゼンを蹴り込んでもグズっと崩れ落ちてしまい以外と難所なのですが、今日はここも雪が締まっていて楽に登ることができました。






13時21分
西穂高岳独標登頂
周囲の視界はありません。
頂上方面を見てみると、うっすら隣の第10峰が見える程度です。雲が抜ける瞬間を待ちますが、一向に視界が回復しません。停滞しているので徐々に体が冷えてきます。気温こそは普段より高めですが暴風が絶え間なく吹き付けているので、体感温度的にはいつもと変わらず氷点下20度前後というところでしょうか。

先に進むこともできますが、ここから先に行っても視界がないので、疲れるだけで何のメリットもないの話になってしまいますから引き返すことにします。






13時40分
第12峰です。
ご覧のように両側切れ落ちています。夏道はこの峰を巻いていきますが、この時期は峰の上をいきます。
登る時は気づかないのですが、下山時に改めて見るとちょっとびっくりします。峰の上は雪庇が張り出しているので、あまり信州側は歩かないほうが良いです。今回は飛騨川から暴風が吹き付けているのでかなりスリルがありました。






14時01分
この時間になると、これから下山していく稜線が見渡せるようになりました。
凄く安心です。

下山する際、12峰を過ぎてしばらく降りていくと、今まで狭かった稜線が一気に広大になります。いうなればどの方面にも降りていけてしまいます。なので視界がないと間違った方面に降りてしまう可能性が大な訳で、そのような状態を一番危惧しているわけです。

今回は写真のように視界が開けてくれたので大変助かりました。






14時04分
大正池や上高地が展望できます。
なんだか写真を見ると上の方は灰色でペイント加工したように見えますが、実際こんな状況でした。こんなこともあるのですね。
上高地の近辺は日が当たっているようにも見えます。
この時期の上高地はご存知のように釜トンネルから延々と歩いていかなければなりません。それでも冬の大正池とかは写真で見るととても魅力的ですので、一度は冬の上高地も行ってみたいなとか思ったりします。







14時34分
だいぶ下山してきたところで振り返ると稜線の雲が抜けて峰々が姿を現しました。少しですが青空も出ています。
やはり夕方近くになると雲が抜けてくるものなのでしょうか。
しばらくベストコンディションになるのを待ちますが、写真の状況以上に良くならなかったので諦めて山荘へ戻ります。






15時25分
さて、山荘へ戻り部屋に荷物を置いてひと段落したら地酒を飲んでマッタリします。
至福の瞬間です。
美味しい地酒を飲んで、肴は標高2,300mの雪景色。






これが、酒を飲みながら窓越しに見ていた景色です。
私のような者は酒飲みながらこのような景色を見れるだけで幸せになれてしまうんです。単純ていうか○カと言うか・・・

至福のひと時を過ごした後は、夕食まで仮眠します。

今日の山荘宿泊者は私を入れて3名。うち2名はご夫婦の方なので、今日は個室状態です。広々とした部屋にひとりきり。今までこの時期に宿泊した中では一番少ない人数です。


翌日は天候が下り坂になることがわかっていたので、下山することにします。
風が強くなるという予報だったのでロープウェイの運行状態が心配でしたが、無事始発便は動いていたので助かりました。

始発便に乗っていたのは私しかいなかったのですが、ロープウェイのスタッフの方は真面目にロープウェイから見える山岳の説明をしてくれてちょっと感激しました。


というわけで、あまり天候に恵まれない初登りだったのでした。


2016年02月19〜20日




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