冬の西穂(2014年2月)第2部
誕生日の朝。
自分の予想とは異なり、雲ひとつない快晴。登らない理由がありません。
自分より下は雲海、上は晴れ。ただし昼前からは薄日になりました。予報通り天気は下り坂のようです。
06時38分
起床してとりあえず外の様子を確認しに行きます。
なんと!! まさかの快晴
え? どうして? 予報は曇りだったはず。
今あなたはどこにいる? そうか、雲の上にいるんです。麓は予報通り曇り、山荘があるのはその雲の上。
06時42分
ご来光。
誕生日の朝に穂高の山からプレゼント! そんな気分です。
気温は氷点下10℃前後。この時期のこの時間帯にしては暖かいです。それでも氷点下であるには変わらないので防寒対策をしてご来光を眺めます。
美しいですね。いや本当にこういうのを「美しい」っていうんですよ。
07時06分
さあ、出発です。もちろん稜線へ。
雪だるまもあまりの天気のよさにウインクしています。
07時17分
今日は雲海が綺麗です。
今日はいつもと比べると風は強くないです。が、下界に比べると強風である事には変わりありません。途中で風が強いので引返したてきたという方とすれ違いました。もったいないなと思いますが、それはその人の判断ですので引き止める事もしません。
07時24分
昨日と同じように丸山まできました。
後ろの笠ヶ岳と雲海が綺麗です。よく見ると道標の左側に虹が丸く出ています。今日は至る所でこんな感じの虹を見る事が出来ました。
さて、今日の雪のコンディションのことを書いておきます。
実は今日のコンディションはあまり良くありません。昨日のベストな状態の上にパウダースノーが乗っていて、気をつけないとこのパウダーでズルッと滑ってしまいます。
最初は強風で雪煙が舞ってパウダーが乗っているかと思いましたが、風に乗って雲海から細かい雪が運ばれてくるのではないかと考えています。下山時、雲海の中に入って行ってそう思いました。
このような状態だと丸山付近の安全なところなら危険性は少ないのですが独標から先の稜線では致命傷になります。もし、雪の状態が昨日と同じであれば今日は西穂高岳主峰まで行けるコンディションですが、この雪の状態から判断してピラミッドピークより先は危険だと判断しました。天候や時間は問題ないですがピラミッドピークで打ち止めにしておきます。
実際、ピラミッドピークに行く間もヒヤリとする場面が多々ありました。
稜線を見上げます。
今日も素晴らしき快晴ですが、飛行機雲が長く伸びていたので湿度は高いようです。やはり天気は下り坂なんですね。日差しも昨日と比べると薄日に感じます。
丸山から先の稜線は広大なので皆いろいろな所から登って行きます。なのでトレースがいくつもあり混乱してしまうのと、今日みたいにパウダースノーが乗っているときや降雪直後の場合はトレースが消えてしまいます。注意しないと行けないですね。
07時51分
途中、いつもとは違うトレースがついていました。
本当はもっと左側を登って行くのですが、皆こちらを通っていったようで昨日に引き続きこのトレースを利用させていただきます。たぶん次にまとまった降雪があれば消えてしまうでしょう。
08時18分
丸山から先の広大な稜線をひととおり登りました。どこを通っても結局稜線は細くなるのでたどり着くとこは同じです。
さて、もう少し先に行くと岩峰地帯が始まりますので、ここでトレッキングポールからアイスバイルに切り替えます。トレッキングホールが凍り付いていて最初短く格納する事が出来なくてちょっと苦労しました。
乗鞍岳方面を見るとこれまた凄い雲海です。
08時23分
独標頂上直下まできました。
ここで問題発生。
トレースが消えているんです。
写真をご覧になると分かると思いますが、途中までははっきりとトレースがついているものの岩の辺りで消えてしまうのが確認できると思います。
昨日はちゃんとあったのですが、全く跡形もなく消えてしまっています。ルートは行ったん左側に進んだ後、すぐに右上に登って行きます。
岩場を直登しようかともおもったのですが、パウダースノーが吹きだまり状態になっていて止めました。ここは滑落するとアウトだし、実際に滑落して死亡しているケースがある場所なので、ここで引返そうかどうか真剣に考えます。
で、試しに2、3歩進んで状況を確認してみたりします。
結局、キックステップで蹴り込みながらトラバースして進む事にしました。10mもない距離ですが、蹴り込みが甘いと足下が崩れてしまい、そのまま谷底へ行ってしまいますから、もの凄い緊張感です。
常に舞い上がってくるパウダーのせいで、自分が付けたトレースもすぐに消えてしまいますので、下山時も再びキックステップでのトラバースでやり過ごしました。
09時02分
西穂高岳独標登頂。
凄い景色ですね。こんなに雲海がでていたのは多分初めてです。
ふと下をみると、今朝おなじテーブルで食事をしたご夫婦が登ってきているのが見えます。話を聞く限りでは奥様はあまり雪山が経験ないとのことでしたので、先ほどのトラバース部分が凄く心配になりますが、ご主人様のほうが経験豊富でザイルを使ってサポートするとの事でしたので大丈夫だろうと考えたりします。
独標から見る西穂高岳〜奥穂高岳〜前穂高岳の稜線です。2月にこんな景色をみれるなんて本当に幸せです。
09時09分
先へ進みます。
写真は独標(第11峰)と10峰の凹んだ部分(コル)です。独標から先に行けるかどうかの一定の判断として、このような雪まじりの岩峰を登れる(下りれる)技術があるかどうかで判断できるかもしれません。
先ほども書きましたがパウダースノーが乗っているので慎重にいかないとズルッと滑ります。ここで滑ったらどうなるかは写真を見てもお分かりいただけるかと・・・
第10峰からピラミッドピークを見上げます。
写真の一番手前(一番下)に映っているのが第10峰と第9峰の間にあるコブです。普段は何でもないのですが、今日みたいに足下が悪いときは一気に難易度が上がります。
ほんの小さいコブですが実は絶壁です。あの大キレットの飛騨泣きに匹敵するような高度感があるなかで、アイゼンをつけて雪まじりの岩をしがみついて行かなければなりません。しかもその足下が不安定なのですから一瞬ではありますが死ぬような思いをしました。
09時35分
ピラミッドピーク登頂。
今日は昨日と違って主峰までの稜線がはっきり見えます。こうやって見ると第6峰から先のトレースは消えているように思えます。恐らくはチャンピオンピークから先は、ずっとキックステップによるトラバースになることでしょう。危険を覚悟の上で時間をかければ主峰に行けなくもないかもしれませんが、誕生日というめでたい日に悲しい出来事をつくりたくないのでここを目的地とします。
先月に引き続きこんなによい天気だったのはとても運がいいです。
「誕生日にこんな素晴らしい天気にしてくれてありがとう」
穂高の峰々にお礼をします。
何よりもの誕生日プレゼントでした。
2014年2月13日
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