穂高に魅せられてー「夏」編
「春」編より続く
Q
次に穂高の夏についてお聞きします。
ズバリ夏の穂高の魅力は何ですか?
A
新緑と残雪のコラボレーションがとても綺麗です。
2016年7月22日 涸沢から北穂高岳への登山道より奥穂高岳方面
雪が解けると、それを待っていたかのように高山植物が一斉に成長を始めます。空の青と植物の緑、それに残雪の白。この色の組み合わせはとても好きですね。
Q
春は奥穂高岳ということでしたが、夏は範囲が広がるのですか?
A
夏は縦走をします。今、定番なのが涸沢より北穂高岳に登り、そのまま涸沢岳、奥穂高岳、前穂高岳と縦走し岳沢へ下山するコースです。
Q
穂高の縦走は難易度が高いと聞いていますがどうですか?
A
確かにこのコースだと難所はありますね。
2016年7月22日 涸沢岳手前の難所を見上げる
写真は涸沢岳手前の難所、地図でも危険のマークが付いている部分です。ここは日本一長いと言われる鎖がずっと張られており高度感も半端ない場所で、いつきても緊張する場所です。
Q
ちょっと待ってください、これを登るのですか?写真で見る限りは「道」とは思えないのですが、これでも一般登山道なんですか?
A
実際にはルートがマーキングもされているし鎖も設置されているので、落ち着いて登っていけば大丈夫です。ただしずっと岩場を登ることになりますのでそれなりに筋力は必要になりますね。
Q
穂高の縦走はずっとこんな感じなのですか?
A
基本は岩場のトラバースになります。ただ、最初から最後まで写真のような絶壁が続くというわけではありません。中には休憩できるポイントもあります。
Q
それは安心できますね。
A
北穂高岳から涸沢岳のちょうど中間地点になります。
2012年7月27日 最低のコルから涸沢を望む
最低のコルと呼ばれる地点で、ちょうど腰掛けるのに都合のいい岩場もあり休憩にはもってこいのポイントですよ。
Q
あのー、すごい場所なんですけど。怖くて休憩どころではないような気がするのですが。
A
そうですか? 意外に落ち着けますよ(笑) そもそも穂高の稜線上ですから休憩できる場所があるというだけでも幸せだと思います。実際に休んでいると高山植物が謙虚に咲いていてとても楽しいです。
それでも、穂高の稜線は基本的には森林限界を越えた高度で、岩峰なので里山のようにのんびり歩くというイメージではありませんね。どちらかというと3点確保で岩場を切り抜けていく感じというか。
Q
そういう部分がまた魅力的なんでしょ?
A
そうですね。
2016年7月23日 前穂高岳山頂より穂高の峰々を望む
この写真は前穂高岳山頂から撮った写真なのですが、前穂高岳というのは通常は紀美子平という場所から山頂に登っていくのですが、この紀美子平に行くまでに相当の労力や時間が必要なんです。しかも、紀美子平から山頂までがまた岩場の連続で「穂高はここまで挑戦してくるか」って思ってしまいます。それでも前穂高岳から見える絶景というのはそんな苦労が吹っ飛んでしまうほど素晴らしいです。だからまた登ってしまうんですよね。
Q
すごいですね。今、通常の場合は紀美子平から登ると言いましたが、別の場所から登ることもあるのですか?
A
バリエーションルートと言ってクライミングギアなどの専門の登攀用具や経験・技術があってこそ可能なルートもあります。前穂高岳で言えば前穂北尾根なんてはその代表例です。涸沢から直接前穂高岳へ登るコースです。もちろん私には無理です。
Q
ところで、穂高の登山道は全て網羅したのですか?
A
一般登山道は全て踏破しました。ただし西穂高岳〜奥穂高岳の稜線は一般登山道ではなく先ほど話したバリエーションルートと考えています。登山地図でも実線でなく破線になっていて一般登山道の扱いではありません。なのでこの稜線は未踏です。
Q
あの有名なジャンダルムを経由するルートですね。一度は踏破したいと考えたことはありますか?
A
単独行では無理ですが、経験者のサポート付きだったら踏破したいと思いますね。
2016年7月23日 奥穂高岳山頂からジャンダルムを望む
ただ西穂山荘〜穂高岳山荘まで10時間は必要ですし、9割以上が高度感のある岩峰地帯ですので心身共に疲れ切ってしまうと思います。ただし、踏破した時の達成感は半端無いと思いますね。
あと、ジャンダルムは巻いて行くので、登る必要はないですが、やっぱり登る人が多いようです。ジャンダルムだけが目的なら奥穂高岳から往復という手もありますが、馬の背のようなナイフリッジがあるので、何れにしても難路です。
Q
一般登山道とそうでないルートの違いというのは、やはり技術的に困難かどうかなのですか?
A
もちろんそれもあると思いますが、登山道として一般の人が登れるように整備されているかどうかも大きいと思います。例えば大キレットそのものは一般登山道ですが、通常の人気のルートに比べると整備されているところが限定的なんですね。つまり、もし鎖がなかったらクライミングギアを使って登攀しないといけない、という具合に本当に必要最低限の場所だけ整備しているわけです。それでもまだ一般的な登山道とされています。西穂〜奥穂の稜線も100%無整備ではなく、最低限の場所は鎖があったりしますが、基本は自分でルートファインディングをする能力(その時のコンディションによって進むべき道を判断する能力)がなければ踏破は難しいわけです。
Q
やはり登山道においては整備されているかどうかは重要なポイントなんですね。
A
そうです。例えば穂高岳山荘から奥穂高岳に向けて登る最初の岩場ですが、
2012年7月28日 穂高岳山荘より最初の取り付きを見上げる
写真のように繁忙期は多くの登山者が山頂を目指して危険な岩場を上がって行きます。この部分は鎖やハシゴ、アンカーボルトなどが打ち込んであり、至れり尽くせりという感じで整備されています。もし、こう言ったものが全くなく未整備な状態だったら毎年遭難者が後を絶たないと思います。
Q
そういう意味では登山道の整備をしてくれることに感謝すべきですね。こう言った整備は誰が行うのですか。
A
基本的にはそのエリアを管轄する山小屋が整備をします。もちろん法律的にはわかりません、何か難しい通知とか通達や委託契約とかあるのかも知れませんが、実際に崩落現場での修復作業などは小屋のスタッフの懸命な活動により迅速になされています。
Q
ありがたいことですね。さて、あまり夏の特化した話になりませんでしたが(笑)、穂高の夏のベストショットなどありますか?
A
奥穂高岳山頂からのこの写真は気に入っています。
2016年7月23日 奥穂高岳山頂から朝日に照らされる槍・穂高連邦
縦走最終日でまだ暗いうちに小屋を出発しました。登頂前にご来光になってしまいましたが、山頂からは朝日に照らされる槍・穂高の稜線が幻想的でお気に入りの一枚です。
Q
綺麗ですね。本当に赤く染まるという表現が似合うと思います。
A
後はベストショットとは少し違うのですが、
2017年7月23日 吊尾根から西穂高岳の稜線を望む
これは吊尾根から西穂高岳の稜線を撮った写真です。西穂高岳は冬季に登るのですが、その際には今自分がいる吊尾根が一望できるんです。逆に、この時期は冬に一所懸命登る西穂の稜線を一望できるということで、時期によってお互いの登山道を眺めることができ、なんだか面白いですね。
Q
そういう楽しみ方もあるんですね。
では次に穂高の秋について聞かせていただきます。
「秋」変に続く
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